小学校のころの話。

当時家の事情で祖父母と住んでいた。
私には二つ歳の離れた兄が一人おり、何かと言えば後を着いて回っていた。
たしかあれは11月の終わり頃、夕方5時頃家に帰るといつも居るはずの祖母が居ない。
祖母はいつも夕方には仏壇にお経を唱えるのが日課で、いつもこの時間はお経を唱えているはずなのに・・・。

私はランドセルを今に放りなげると、家中を探し回った。
だがどこを探しても祖母はおらず、残すは祖父の部屋だけになった。

祖父はとても寡黙で、幼かった私には苦手な存在だった。
大声で怒鳴ったりすることはなかったが、とても近寄りがたかった。
私は意を決して祖父の部屋のドアをそっと開いた。

半分くらい開いた所で兄の姿が眼に飛び込んで来た。
兄は白い浴衣のようなものを着て、顔には化粧のような物をしていた。

化粧と言うと違うかもしれない。
白い下地に目と口の周りは赤い色で塗りたくられていた、分かりにくいかもしれないがドラゴンヘッドっていう映画に出てた奴みたいなの・・・。

よく見ると、兄の後ろに祖父が立っていて、兄の肩に手を置いて何かブツブツと言っている。
私は怖くなって、ドアを閉めようと思ったが体が動かなくなってしまった。
しばらく祖父は兄の肩に手を置いたままブツブツと言っていたが、そっと手を離すと兄と向かい合わせになった。

祖父は兄の浴衣に手をかけ、丁寧に脱がし始めた。
私は見てはいけないモノを見てると解っているが、いかんせん体が言うことを効かない。
額から油汗が流れて、目の中に入る。
そして祖父が兄を裸にした時、後ろから声がした。

私を呼んだのは祖母だった。

祖母は私の腕をそっと引くと、静かに祖父の部屋のドアを閉めた。
私はとても恐ろしく、祖母に「あれは何?」と尋ねた。
祖母は優しく笑いかけると「何んか見たんけ?」と一言。

私はその祖母のおかしな返事と家の中の異様な空気にただ下を向くだけだった。
祖母は台所に置いてあったみかんを1つ私に渡すと「じいちゃんはお兄ちゃんにこの家の守り神の言葉さ伝えてるんだ、でもお前にはあんなことしねえから」と言ってニコニコとしていた。

もう頭がパニックで意味が解らなかったが、それ以上何も聞けなかった。
しばらくして兄が祖父の部屋から出てくると、兄は何事もなかったように私をゲームに誘った。

祖父と祖母が居なくなったのを見計らって、私は兄に聞いた。

私「さっきじいちゃんの部屋でなんしよったん?」

兄は一瞬真顔になって「お前はなんも心配せやんでいい」と一言言うと、また笑顔でゲームを始めた。

大きくなって母にこんなことが昔あったと話しても、うそ~?って感じで信じてもらえなかった。

兄とは今訳あって連絡を取ってないので真相は聞けないが、あれはいったい何だったんだろう?