知り合いの話。

彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。

ある山奥へ踏み込んだ時に、地元の農民に注意された。

農民「この辺りの山には入らん方が良いよ。犬に襲われるから」

野犬かと思ったが、よく聞いてみるとどうやら違うモノらしい。

農民「黒犬って名前でね、地の中を泳いで移動するんだ。別の村じゃ土中犬とも呼ばれてる。森の中で、いきなり足元が盛り上がり、犬の頭が飛び出て噛み付いてくるんだ。群れで襲ってくるから、襲われた奴は地面の下に引き摺り込まれちまう。悲鳴を聞いて助けに行ってみれば、もうそこには凹みが残されているだけ。やっとこさ掘り起こすと、散々に食い荒らされた骸が出て来るんだ。相手が土の中じゃ、簡単に追い払うことも出来ないしね」

「それは本当に犬なのですか?」と問えば、こんな答えが返ってきた。

農民「犬に似た何かの化け物・・・ってことだ。でっかくなった古い木に、黒い獣の精が湧くことがあるらしくて、それが育つとこの黒犬になるんだそうだ。元は木のくせに、何で肉を喰らうのかね。年寄りが言うには、大昔は都からわざわざ狩りに来ていたらしい。その肉を鍋で煮込むと、これが何とも言えないほどに美味なんだってさ」

本当になんでも食べるんだなぁと、聞いてから苦笑いしたのだそうだ。

さすが中国、色々と不思議な話があるものだなぁ。
呆れつつも感心した私だった。