同級生の話。

岩だらけの連山を一人で縦走していた時のことだ。
だだっ広い岩場の真ん中で、籠を背負った小母さんとすれ違った。

こんな場所に何で農作業姿の小母ちゃんがいるんだ?大根とか背負ってるし。
思わず呼び止め、どちらから来られたんですか?と問い掛ける。

小母ちゃん「この近くだよぅ」

そう言って愉快そうに笑う。
皺だらけの顔に邪気は見られない。

近くねぇ・・・首を傾げていると、小母さんは更に続けて言う。

小母ちゃん「ここから少し行ったところに無人の湯治場があるけどサ、利用しちゃダメだよぅ。猫になっちゃうからサァ」

なんですと?

小母ちゃん「そこに浸かると、びっしりと猫の毛が生えてきて、やがて本当に猫になっちゃう。身体の大きさは人のまんまっていうから、まぁ化け猫だね。猫湯ってちゃんと看板が出てるから、間違っても入っちゃダメだよぅ。こんな所で猫なんかになっちまったら、飢えて乾いて日干しだよぅ」

呆然とする彼を残し、小母さんはケラケラ笑いながら去って行った。

気になってしまい、注意して探してみたのだが、猫湯などという湯治場などどこにも見つからなかったという。

同級生「からかわれたかな?でも、あの小母ちゃん、本当どっから来たんだろ」

私「その小母ちゃん自身が、実は化け猫だったりして。お前、化かされたんじゃない?」

そう口にした私を、彼は引き攣ったような目で睨んだ。