Aさんは友人数人とともに夏の夜、危険を承知でそこへ行った。

“危険”というのは辿り着くまでに急斜面を下りなければならないから。
そして、大昔、橋から落ち何人もの人間が命を落としているという事実があったからである。

Aさん「あ、コレだ、コレだ」

そこには死者の霊を弔う地蔵が、崖にうがたれた大きな穴の中に安置されていた。
Aさんはカメラを片手に梯子を上った。
写真を撮ろうとしていたのだ。

Aさん「でも、顔がわからないよな」

地蔵には頭巾が被せられていた。
だが、それは顔にかかり表情を覆い隠していた。
そこで、彼は頭巾をずらし、暗闇の中でシャッターを切った。

Aさん「うわぁ!!!」

友人「どうした?」

Aさん「眼が、眼が開いてた」

友人「──嘘──」

だが、河合さんの顔は真っ青。
その言葉を疑う者は誰もいなかった。

Aさん「行こう」

中の一人がそう言い全員がその場を後にしたという。
だが、車まで戻る最中、河合さんが奇妙なことを口走り始めた。

Aさん「まぶしい、まぶしい・・・」

友人「どうしたんだ」

Aさん「まぶしいんだ。まぶしくて眼がよく見えない」

夜である。
辺りは暗い。
まぶしいと感じるようなものはない。

Aさん「ちょっとその帽子貸してくれないか」

河合さんは友人の一人が被っていた帽子をひったくると、それを目深に被ったという。

Aさん「これでいい。やっと落ち着いた」

その姿は当に地蔵そのもの。
皆が言葉を失った。

その後河合さんは眼鏡をかけるようになった。
急激に視力が低下したからだが、そこに行ったメンバーは皆、それが“地蔵”と関係していると思ったという。