とある里山の集落で聞いた話。

その集落には、五つの農業用の溜め池があった。
雨の少ないこの土地では、昔から溜め池の水をうまく管理することで、全体に必要な水を回しているそうだ。

その溜め池五つ全てに、蛇女なる妖怪が出るという。

蛇女は全身を緑色の鱗で覆われ、下半身は蛇のそれだという。
長い髪をぬらぬらと身体中にまとわせ、池の中央からゆっくりと顔を出す。
そして、そこだけ異様に赤い唇を歪めながら、「わたし、きれい?」とニヤリと笑うという。

溜め池は、水が必要な時期以外は立ち寄る人も稀なのだが、それでも時々釣りなどにやって来る者がいる。
そういった者たちが、二、三年に一回、その蛇女を目撃して大騒ぎをする。

五つの溜め池どれもで目撃されており、蛇女が一体なのか複数体なのかはわからない。
しかし、目撃内容は全て一致しているという。

一度神主を呼んでお祓いをしたこともあったが、今でも度々、蛇女の名は集落を賑わしているという。

なんとも、どこかで聞いたような話の詰め合わせだな・・・。
私は口には出さないもののそう思った。

話はこれで終わりかと思いきや、私に蛇女のことを教えてくれた男性は、何かもの言いたげにこちらを見つめていた。

私「もしや、何か後日談でもあるんですか?」

そう問うと、男性は白髪混じりの髪を撫でながら、迷いながら切り出した。

男性「その、あんたはよそから来た人だから言うけどな」

私「はい?」

男性「あの蛇女の話な、もともとはわしの作り話なんや」

私「はあ?」

男性「まだ若かった頃、当時流行っていたオカルトブームに乗りたくてな。それで、蛇女なんて話をでっち上げて、噂を流した。そしたら、それが思いの外広まっちまってなぁ。あれはわしの作り話だと、誰に言ってももう相手にはされなかった。いまだに、蛇女を見たという話が出てくる」

長年抱えた秘密をやっと打ち明けることができたのか、男性は饒舌だった。

男性「わしは恐ろしいよ。元は確かにわしのでまかせだったはずなのに、それがいつの間にか生きて動き回っとる。蛇女を見たという奴は、一体何を見とるんだろうなぁ」

大きくため息をつく男性を見つめながら、私は本当はいないはずの蛇女の姿を改めて想像し、先ほどはちっとも感じなかった寒気を感じたのだった。