じゃ駄話をひとつ。

大学時代の友人にUという奴がいる。
面白いほどトラブルを持ち込んでくる男だ。
DQNではなく、むしろお人好し過ぎるからだ。

一度など、隣人のあんちゃんがひき逃げやらかして自分のガキを置いて逃げたとき、親代わりに、何日間か面倒をみていた程だった。
その話を後から聞いたときは心底呆れたが、Uらしいなと苦笑した。
そいつが大学時代にとんでもない体験をしたことがある。

夏休み、Uは彼女とドライブに行った。
日帰りだったのだが思いのほか遅くなって焦っていたという。
俺だったら無理して帰るどころか一泊のチャンス、と思うのだが、Uは夜中に車を走らせていた。

最初は息苦しさを感じて、次に胸がグッと痛み出した。
そして寒気。
いくら北海道の山の中でも夏は夏だ。
インフルエンザ、と思ったそうだ。

不要な心配かけたくなかったので、彼女は起こさなかった。
しかし寒気、悪寒がひどくなり、路肩に寄せて一息つこうとしたとき、ヘッドライトが異様なものを照らしていた。

ボロボロな格好をした人間が何人も連なって歩いている、背を丸めて。
肌の色は緑がかっていて、目も口も真っ黒な穴のよう。
すごく違和感をおぼえる色彩を放っていたそうだ。

ジャリ、ジャリと何かを引きずる音。

そして、おしっこと汗の煮詰まったような強烈な匂いがガーンと直撃した。
恐怖のあまり寒気すら忘れていたUだが、その時に嗅いだ匂いは一生忘れられないほどだったらしい。

その時、隣の彼女がUを呼んだ。
すると彼らの姿が消えた、Uはすぐに車を発進させた。

彼女「どうしたの?」

只ならない様子を感じて彼女はUに聞いた。

Uは「なんでもないよ」と答えて最寄のコンビニに駆け込んだ。
コンビニのあんちゃんを見た瞬間Uは思わず感涙しかけたそうだ。

以上俺が彼から聞いた話。
そんな作り話ができる奴とは思わないので実話だと思う。

後日談だが、怖がらせたくなかったので彼女には黙っていたUだが何故あの時起きて呼んだのか、聞いたそうだ。
その答えはこうだった。

「寒かったから目が覚めた」