知り合いの話。

彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。

「珍しい野草が生えるという噂の山があったんです。
そこの山に入ろうとしたらですね、地の人に止められたんですよ。
この奥には誰も入ってはならないって。
特にお前みたいな薬草摘みは駄目だって、もう全力で阻止されました。
なぜ駄目なのかと聞いたところ、不気味な話を聞かされたんです。
なんでも、その山には性質の悪い獣が棲んでいるんだそうで、一見羊に見えるらしく、確かにその胴体は羊なんですが、手足は犬のもので、おまけに顔は人間の赤子にそっくりなんだとか。
可愛らしい外見とは裏腹に、これが人喰いの化け物なんですって。
しかも底の知れぬほど大喰らい。
普段は地中で眠っているのですが、一旦目を覚ますと里に下りてきて、手当たり次第に餌食としてしまう、そう言われました。
この羊の背中からは、美しい花や珍しい野草が何本も生え出していて、それが私のような者の目を引くのだとか。
ついつい引き抜いてしまうと土中の獣が目を覚まし、這い出してくる。
だから草木を生業にしている人は、山に入っちゃいけない・・・。
そう真剣な顔で散々言われましたから、こっちも強行できなくて・・・」

「そんな獣って実在するのですかね?」

そう私が尋ねると、「さぁどうでしょう?」と微笑みながら彼は答えた。