3年ほど前の夏のこと。
姉が結婚することが決まり旦那の実家がある九州の方へ、あいさつもかねた家族旅行へ行った時の話。

空港から市街を観光し、目的地までの道中にあるホテルへ向かった。
みんなが床についても寝付けなかった俺は近くのコンビ二で立ち読みをして、頃合いを見て戻った。

ホテルへ戻るとロビーは大きめの常夜灯のみで、入ってすぐ左手のフロントや、右手のお土産屋などに灯りはなかった。

フロントから3mほど進み左の通路入るとエレベーターがある。
エレベーターのある通路には灯りがついており、ボタンを押してあくびをしながら待っていた。

するとその通路のさらに奥の左の角の暗がり(位置的にはフロントへの扉があるはず)から3歳~4歳くらいの女の子がキックボードに乗って出て来た。

一瞬ドキッとしてお化け?とも思ったが、女の子の見た目は黒地に白の水玉で、肩とすそがそのままフリルのように生地が膨らんでいて、白地に紺のボーダーのタオル生地のズボンで、髪の毛はてっぺんでちょんぼりにしてたから寝まきだろうなと思った。

質感的にも人間と見て取れる、ごくごく普通の女の子であった。

お化けだとしてもキックボードに乗ってるお化けなんてハイカラだな、とかしょうもない事考えつつエレベーターを待ってたが、“なにか”変だった。

胸の内に言い表すことが難しい、焦燥感とも不安感ともいいがたい感覚になる。

女の子の方をちらっと見ると、女の子は無言で俺の顔を見ながらするすると近づいてくる。
その距離約4mほど。

不思議と俺もじっとその子の目に惹かれるように見つめてしまい、眠かったのと加えて頭がふわふわしてくる感じがした。

俺は子供が好きで友達の弟妹なんかの遊び相手とかをよくしてた。
でもこの女の子にはいつも子供たちに見せる笑顔はなく、次第にふわふわとする頭の中で逃げなきゃとぼんやり思った。

エレベーターが到着してチンッと音がなる。
その瞬間ふわふわした感覚から解放され、女の子との距離は2mほどまで近づいていた。

奇妙な感覚は残っていたが、驚くほど冷静に落ち着いてエレベーターに乗り込み階数ボタンを押して、その後閉じるボタンは連打していた。

閉じていくドアの向こうで女の子はエレベーターの前でキックボードにまたがったまま立ち止まり、変わらず俺の目を見つめて来た。

ドアが閉まると自分の心臓がバクバク音をたててるのが聞こえてきた。

降りてドア開いたらどうしようとか思ったが、案外何もなく、部屋の布団に潜り、汗ばむ手で携帯を見ると時間は深夜の4時を回ったところだった。

ホテルだし親も起きてて、とかホテルの従業員の子供かな、とか色々考えてる内に眠っていた。

翌朝チェックアウトのためにエレベーターに乗り1階へと降りる。
皆がフロントへ向かう中、興味本位で女の子が出て来た角を覗いてみると、そこには従業員用入口の看板がついたドアがあった。

とてもじゃないがキックボードが収まる幅はない。

仮にドアが開いていたとしてもドアは通路側へ開き、かつはみ出すから昨晩の状況だったらドアが見えてたはずだとか、思考がぐるぐるして、顔から血の気がひいてくのを感じた。

怖くはなかったけど不思議な子だったなーと今でも思い返す。