S線K駅の不動産屋:駅から徒歩15分、大通り沿いの物件を紹介された。
事故物件だが事件や自殺ではなく病死だという。
言い忘れたが俺は少し霊感がある。

不動産屋の口頭説明で、間取り図も見ないうちから、白い塗り壁に茶色いフローリングで、ロフトのある部屋だとなぜか解った。
というか、自然と脳裏に浮かんだ。

フローリングの床に、窓側が頭、玄関に向かって足を広げて、がっちりした50がらみの真っ黒な男が寝転がっている。
キッチンや風呂トイレの様子はわからない。

おそらくドアを開けて左側にあるだろうとは感じたが、やけに幅の狭い部屋で、真っ黒な男はふてくされたような茫然としているような・・・。

慌てて話を遮り、予算より1万円ほど安い別の物件を見に行くことにした。

腐食した金属の外階段しかない4階建ての4階。
ベランダはなく窓には庇も雨戸も網戸もないが、日当たりは良好。
部屋も2間あり広々としている。

洗濯機は中置きで、前の住人が置いていったピンクの全自動がそのまま置いてあった。
押し入れと部屋の真ん中でヤマトゴキブリが死んでいる。
風呂場は磨りガラスの引き戸を開けるといきなりタイル張り、シャワーはなく蛇口のみ、低い台座の上に風呂釜。
隅に年取った女がいる。
霊感があるがはっきり見てしまったのはこの時だけだ。
こちらを気にしてはいないが、いなくなりそうにない。

たぶん不動産屋(の営業マン?)と俺の「波長があった」んだと思う。
自分一人では何も感じないタイプだから。
ちなみに営業マンは気のいい調子のいいオッサンだった。

その不動産屋では結局契約しなかった。