中学生のときだったかな。
休みの日に、友達に公衆電話から呼び出されて、部活なんかもやってない俺が、しぶしぶ学校に行った。
そいつは野球部のやつで、何で公衆電話からなんだろう、と少し変に思いながら。

部活が終わったのがその時間なのか、呼び出されたのは夕方で、陽もすでに落ちかけてて、学校内も人がまばらになっていた。
さすがに職員室には教師が数人いたと思うけど、友達が来てくれと指定した場所は3階の教室の前だった。
階段を上がり、廊下に出ると、夕陽のまぶしい光が直接目に飛び込んできた。
少し目がくらんで、その後よく廊下の先を見てみると、人影があった。

俺はそいつだと思って目を擦りながら近づこうとして、待てよ、何かおかしいぞということに気がついた。

廊下が歪んでる。

歪んでる、というのは誇張でもなんでもなくて、目を凝らしたけど、本当にぐにゃぐにゃと陽炎みたいになっていた。
廊下の脇に角材が置いてあったんだけど、それも途中まではまっすぐなっていて、途中からぐにゃぐにゃと歪んで揺れていた。

そして、俺を呼び出した友達が、その歪みの向こう側に居ること。
終始、逆光で、黒い影しか見えなかったこと。
よく考えれば不可解なことが、一瞬で頭を駆け巡り、逃げようと決めた、その時だった。

影が突然縦に細くなり、ものすごい速さで揺れ始めた。
影絵の『パンを踏んだ娘』みたいな感じで、ぐにゃぐにゃ、ぐにゃぐにゃと。

慌てて階段を駆け下りて、一階の職員室に飛び込むまでとても長かった。
事情を説明しても信用されるとは考えず、でも教師に会えたことで少し安心感が湧き、苦笑いで部屋を後にした。

結局、まあ今考えるとやっぱりというか、その友達は俺を呼び出してはいないということだった。

学校が結構田舎くさい場所にあったから、何か因縁めいた話でもあるのかな、と思っていたが、そういう話も無く、謎は謎のまま終わってしまった。

ただ今でも、あのまま歪んだ先へと行っていたらどうなっていたのか、ということだけはあまり考えないようにしている。