僕は若い時から頭に毛がありません。
男性型脱毛症というやつです。

ある晩、僕が風呂上がりに鏡の前で歯を磨いていた時のことです。
ふと、頭の上に何かが乗ったような感覚がありました。
前述の通り、僕には髪の毛が無いので、その感覚は確かでした。

恐る恐る鏡を覗き込み、僕は唖然としました。

「手」です。

毛ではなく、手なのです。
女性の、白くそして冷たい手。

その手は僕の頭をゆっくりとさすり、やがて段々と横へずれてゆきます。
次の瞬間、頭に激痛が走りました。

その手が今度は、僕の残り少ない髪の毛をひっぱったのです。

僕は必死に抵抗しました。
でもその手はもの凄い力です。

『ブチブチッ』

快音と共に、頭の中が真っ白になりました。

しばらくして、目が覚めましたが、自分の手を見て驚きました。
鮮血に染まり、髪の毛が握られていたのです。

これは、病院でタミフルを処方してもらってから数日後の話です。