知人は田舎で土木作業員をしていたそうだ。

ある日、同僚と現場を回っていたらスーツを着た男が山に続く遊歩道に入ろうとするのが見えた。

その遊歩道は知人がちょうど工事しているところで、1kmもすれば道は途切れているのだった。
知人達はすぐに男を追いかけたのだが、なぜか見失ってしまったそうだ。

下手に怪我してもらっても困る。

携帯電話も届かない所だったので知人は同僚を残し会社に戻ったらしい。
会社では社長は社長で最悪の事態を考えた。

「首吊りでもされたら面倒だ」

他の現場の作業員を集めて男の捜索にあたった。
が、しかし男も死体も見つからなかったそうだ。

狐につままれたような話だが、知人も複数の同僚も男を見ていた。
知人はその後もスーツ男に興味を持ったそうだ。

もののけ姫に出てくるタタラバと関係する中国山地ヒバゴンと呼ばれたUMAの話もある。

知人は男が漂泊の民サンカでは無いか、遊歩道の向には現代社会とは切り離された集落でもあるのでは無いか、スーツの男は必需品を調達する為に山を降りてきているのではと考えた。

しかし、知人が推論の根拠を集めようとすればするほど、否定する情報ばかり集まったらしい。

昭和四十年代までならともかく、航空機、衛星写真、道路交通網が発達した現代、中国山地程度では秘密のサンカ集落が存在する可能性よりもスーツ姿の男がただの幽霊である可能性のほうが大きいそうだ。