仕事仲間の話。

山奥の実家に里帰りしたとき、義父の炭焼きを手伝うことにした。
幼い息子も行きたがったので、連れていくことにした。

義父は大層喜んだが、一つだけ妙なことを言う。

「今夜遅く、日付の変わる頃合には焼き小屋の外に出られないから。トイレは早めに済ませておくか、我慢しろ」

「どうしてですか」

そう問えば「今日はそういう日だから」としか答えない。

興味を覚え、深夜まで起きていたが、特に変わったことは何も生じなかった。
少し残念に思いながら眠りについたのだという。

しかし翌朝、息子がこんなことを口にする。

「昨日の夜はお外ですっごい音がしてたね。象でも通ったのかな?」

「象は日本にいないし、大体が昨晩そんな音はしなかったぞ」

彼はそう嗜めたが、息子は頑なに、大きな足音が聞こえたと言い張る。

義父は「ほう、あれが聞こえたか」と少し感心したような声を上げた。

「僕には何も聞こえませんでしたが」と彼が困惑しながら尋ねると、「まぁ見えたり聞こえたりしない方が良いかもしれん」とだけ返す義父。

大きくなった今も時々、息子はあの夜の話をする。

「あの音、親父だけ聞こえなかったんだよな」と嬉しそうに。

それを聞く度、なぜか悔しくなるのだそうだ。